とかげのたからもの

バンドが趣味の育児中会社員です。音楽鑑賞とジョジョとレミゼラブルが好きです。

レミゼラブル12年映画版 副音声の話 その2

レミゼラブルの映画版の特典映像のトムフーパー監督による副音声解説、本編に続きましてジャベたん部分。
 
 
・工場のケンカのシーンにジャベールを入れたのは、バルジャンがケンカの仲裁をしないことに違和感をもったため。
ジャベールがバルジャンの目に入り、動揺で他のことを考えられなくなってしまったため、仲裁ができなかったということにした
f:id:takki_bear:20200622222346j:image
f:id:takki_bear:20200622222343j:image
舞台だと単に多忙でケンカに構ってられなかった感じだったけど、たしかにこうしたほうが、のちのちファンティーヌに唾をかけられるとき、たしかに自分は自分の都合でこの女を見捨ててしまった、という理由が明確になって良いね。さすがトムフーパー。

・着任のご挨拶、原作や舞台ではジャベールは何年も前からこの町にいる設定だが、設定を変えた。二人の再会のシーンを描きたかったため。
このシーンは舞台版にはないから新たに歌を作った。作る順番は英語の脚本→旋律→フランス語の歌詞→英語の歌詞 らしい。
素人考えでいうと不要そうな「フランス語の歌詞」という工程をわざわざ挟むところに心意気を感じた。
 
・ジャベールの謝罪シーンについて
舞台版より小説やチャールズロートンが演じたジャベールに近い。小説でもジャベールは謝罪に訪れる。ジャベールは職務に忠実なだけで、他人を苦しめて楽しむサディストではない。ジャベールの潜在的な自滅志向が垣間見える
f:id:takki_bear:20200622223433j:image
サディストではないってところほんとそれなって思った。映画版の特徴だけど冷酷な面があまり強調されてないのも監督やラッセルのこのあたりの考えがあるのかなと思う。
 
・対決に格闘を入れたのはラッセルのアイデア。あのジャベールがバルジャンのお願いを黙って聞いてるわけがないから。
ヒュージャックマンは殺陣の経験があまりなかったのでラッセルが教えてあげた。
舞台版や25周年版で、真ん中にファンティーヌを挟んで左右で仁王立ちして歌う感じもすごくカッコいいんだけどもね。映画だからやはり棒立ちはできんもんね。ラッセルクロウのサーベル捌きもカッコよかったし、なんか壁に付いてた棚みたいのを勝手に外して応戦するバルジャンもとてもよきだった。舞台だとバルジャンがジャベールを倒して逃走するけど、映画ではジャベールがバルジャンを追い詰めたかに見えたけど背後の窓から川に飛び込んで逃走するという展開。

・対決の後半、バルジャンが歌わずジャベールのソロになっているのは、ジャベールの生い立ちの歌詞を聞かせるため!
とても重要な歌詞だ。“牢獄で生まれおなじ地獄にいた”。舞台版ではバルジャンが上のパートを歌う。だからジャベールの歌詞には気づかなかった。だが歌詞を読んだ時、初めて2人の共通点に気づいたんだ。小説でもジャベールは牢獄で育っていた。そしてまだ若い頃選択を迫られ、権力の敵ではなく味方になることを選んだ。バルジャンとは対照的だ。ジャベールとバルジャンは同じ人物の違う側面を具現化した存在だ。名前を見ても分かる。2人とも名前を省略すればJVの2文字になる。
f:id:takki_bear:20200622223612j:image
f:id:takki_bear:20200622223609j:image
これは予想どおりだった!やはりジャベたんの生い立ちを聴かせるためだったんだな。納得。
↑の対決の最後、追い詰められたバルジャンが歌うのをやめたことによりジャベールのソロになり、ジャベールの生い立ちの歌詞がハッキリ聴こえるようになるという仕組み。いいねー。

ラッセルクロウはオーディションでもStarsを歌った。祈るように歌っていた。
独白というのは神に語り掛けるという祈りの原点と同じ。バルジャンの独白や彼を帰して・ジャベールの自殺も同じ。
f:id:takki_bear:20200622223825j:image
ラッセルクロウあんまり歌上手くないけど、演技として歌を歌ってるんだなーとわかった部分だった。

・屋根の縁を歩くのはラッセルのアイデア。ここでもジャベールの自滅志向が読み取れる。
これはすごく好きな演出。自滅志向という言葉は初めて聞いたけど、分かる気がする。

・Starsや自殺のシーンの背景は合成。現代のパリの街なかでライブ録音はうるさくて不可能だった。starsと自殺は屋根を欄干に作り替えて使った。
f:id:takki_bear:20200622224004j:image
 
・学生につかまったジャベールが逃げ出そうとするのはラッセルのアイデア
f:id:takki_bear:20200622224255j:image
これもまあ黙って殺されるタマじゃないよねぇ。「いつでも撃て!」と啖呵を切る歌詞とは少し違う気もするけど、まあ啖呵だからね。強がりよね。

・ガブローシュにジャベールが勲章をあげてしまうシーンもラッセルのアイデア
ジャベールの自殺に至るまでの描写にガブローシュに勲章を与えるシーンを加えた。ガブローシュの死に彼は強い反応を示す。彼らが死なずに済む道を選ぶこともできたと少年の死を重く背負う。このシーンに「彼を帰して」の曲が流れる。とても心に響く。動揺の始まりがラッセルの目から感じられる。
f:id:takki_bear:20200622224446j:image
ガブローシュの勲章のシーンの意図はいろいろ想像してたけど、これは全く思いつかなかった!スパイにまで入ったけど、そもそも学生たちを死なせずに済んだのかもしれないとまで考えはじめちゃってたのか。バルジャンの行動に影響されてるんだね。そうなると今までの自分の人生の行動ひとつひとつを疑い始めてしまうのも分かる。

・自殺のシーン、銃を捨てる前
ラッセルが自分の頭に銃を向ける演出も試した。この時点で自殺の意思をほのめかすというものだった。だがそれだと歌と合わない。歌では徐々に自殺に考えが傾き最終的な結論に達する。
f:id:takki_bear:20200622224735j:image
この顔見てよもう…しょんぼりしたブルドッグですよ。

・自殺のシーン
最初はただ水に飛び込むだけだった。ファンティーヌの死後、バルジャンが飛び込んだようにね。でも、やはり劇的な演出が欲しいと思ったんだ。そこで第1助監督の便がバースの堰(せき)を提案した。瞳のような形で地獄の淵にも見えて、とても迫力があった。彼を誘い込むようだ。それに明確な死の描写になる。堰の浅い部分に当たって背骨が砕ける音が聞こえるよ。
f:id:takki_bear:20200622225220j:image
このシーン衝撃的だったから、「明確な死の描写になる」にも納得。

・飛び降りる瞬間はスタジオでラッセル本人、堰に落ちたのは人形、川を流れて水中に沈むのはスタントマン。
f:id:takki_bear:20200622225249j:image
全部人形かと思ってたけどそういうわけじゃないんだね。ラッセルクロウは一日中自殺し続けていたらしい。

・バルジャンがジェベールの自殺を目撃するシーンを撮影していた
夜中までかけあるシーンを撮った。ジャベールが死ぬのをバルジャンが目撃する場面だ。しばらくは使う気でいた。だがバルジャンが去る理由が分からないという意見を私のエージェントに言われてね。ジャベールの死は知らない方がいいと思った。ジャベールに対する恐れも逃げる一因になる。
これは予想外だったけど、確かにこのシーンが無い方がバルジャンが逃げる理由ができるのか。トムフーパー監督ものすごくちゃんと考えてくれてる。
 
 
 
というわけで副音声をすごーくたんのうした。特典映像の副音声を全部聞くのなんて生まれて初めてかもしれん。面白かったわぁ。
トムフーパー監督の解説、言いよどんだり噛んだりすることがほぼ無くて、なんかすごく頭がいい人なんだろうなぁと思った。
元々は4時間あったものを苦心して2時間半にまとめたらしい。歌を泣く泣く短縮したりする一方、どうしても入れたい舞台版にも原作にもないシーンを挿入して物語を補完するなど、「舞台版をなぞればいい」ではなく、レミゼラブルという物語に真摯に向き合ってる感じがすごくした。トムフーパー監督いいなぁ。英国王のスピーチもすごく面白かったし、他のも観てみよう!エディレッドメインが出てる「リリーのすべて」は以前から気になってたしこれを機に観よう。